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認知症の原因・治療・予防について

 「認知症」とは、「脳に器質的な障害があるために認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態」とされております。「認知症」とは病名でなく、記憶力や判断力の低下した状態を指す症候群のことをいいます。

 認知症状を引き起こす原因疾患は多岐にわたっており、70ほどあるといわれていますが、最近の厚生労働省研究班の発表によれば、

  • アルツハイマー型:67.6%
  • 脳血管性:19.5%
  • レビー小体型:4.3%
  • 前頭側頭型:1.0%
  • その他:7.6%
となっています。



1.認知症の原因と症状

 認知症の原因のうち、三大原因疾患である「アルツハイマー型」と「脳血管性」「レビー小体型」の認知症につきその原因と症状をみてみましょう。


原  因 症  状
アルツハイマー型 脳に、「βアミロイド」という異常なたんぱく質」が蓄積、「老人班」と呼ばれるシミができたり、「神経原線維変化」が起こって、脳の神経細胞が死滅し、脳が徐々に萎縮していく 記憶障害から始まり、失語、失行、実行機能障害などの認知機能障害が徐々に進行し、その進行段階は、「軽度」「中等度」「高度」と3段階に分けられる
脳血管性 脳梗塞や脳出血など脳卒中の発作によって、脳の血流が止まり、脳の組織の一部が死滅していく 初期には、記憶障害よりも実行機能障害が目立つ。原因が明確なため、発症時期は比較的はっきりしており、脳卒中の発作をくり返すたびに症状が進行する
レビー小体型 大脳皮質や扁桃体に「α-シヌクレイン」というたんぱく質を主成分とする「レビー小体」が現れ、大脳辺縁系の神経細胞が死滅する 記憶障害などの認知機能障害に加えて、初期から幻視が現れる。また、手足の震えなどの「パーキンソニズム」などの症状がみられ、日によって症状が変動する


2.アルツハイマー病の脳の変化

 アルツハイマー病は、脳が委縮する病気で、委縮は、記憶を司る「海馬」から始まります。アルツハイマー病の人の脳には、神経細胞の外側と内側に大きく二つの変化がみられます。

「老人班」の形成
 「βアミロイド」というたんぱく質が、神経細胞の外側に凝集、蓄積した「老人班」と呼ばれるシミのような病変。

神経原線維変化
 神経細胞の内側にある「タウたんぱく」がリン酸化し、糸くず状に固まり、神経細胞を弱め、死滅させます。





1) 「老人班」形成のメカニズム

 下図に示すように、神経細胞の細胞膜にある「アミロイド前駆体たんぱく」(APP)が、代謝される過程で2種類の酵素「βセクレターゼ」「γセクレターゼ」の作用により切断され、βアミロイドがつくられます。
 健康者の脳では、βアミロイドはすぐに分解されますが、加齢により酵素の分解能力が落ちてくると、βアミロイドが溜まり始め、凝集して「老人班」と呼ばれるシミを形成します。


2) 神経原線維変化のメカニズム

 神経原線維変化は、βアミロイドが蓄積し始めたあとに現れます。神経細胞が壊されたり、死滅したりする原因となる物質にβアミロイドの他に「タウたんぱく」があります。βアミロイドが神経細胞の外側に溜まるのに対し、「タウたんぱく」は中に溜まります。
 下図に示すように、「タウたんぱく」は、神経細胞の軸索といわれる部分にある「微小管」にくっついたり、離れたりしながら、レールの枕木のような役割を果たします。ところがこの「タウたんぱく」がリン酸化すると、微小管から離れ糸くず状に固まり、神経細胞死滅の原因となります。アルツハイマー病の人の脳では、リン酸が非常にたくさん結合していることが分っています。



3.認知症の治療と予防

1) 治療と予防の薬物や方法の全体像

治療法 薬物療法 【疾患別】
■ アルツハイマー病
・コリンエステラーゼ阻害薬(詳細下記)
・NMDA受容体拮抗薬(詳細下記)
■ 脳血管性
・降圧薬、血糖降下薬、
・脂質異常症治療薬
・脳梗塞再発予防薬 等
■ レビー小体型
・コリンエステラーゼ阻害薬
・パーキンソニズム治療薬 等

【行動・心理症状(BPSD)別】
抗精神病薬、抗うつ薬 気分安定薬、睡眠導入薬 等
非薬物療法 回想法、認知リハビリテーション 芸術療法(音楽療法、美術療法)、運動療法 等
予防法 ・食品、サプリメント摂取(成分・素材等 詳細下記) ・生活習慣病予防(高血圧、糖尿病、コレステロール) ・生活スタイル(運動、趣味 等)


2) アルツハイマー病 治療薬

 薬物療法で現在使われている薬は、症状を一時的に改善し、長期的には症状の進行を遅らせる薬です。1999年に世界初のアルツハイマー治療薬として承認発売されていたアリセプト(学名 ドネペジル)に加えて、最近3つの新薬が加わり、次の通り4種類が認可されています。
 作用の違いによって、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の2つのタイプに分けることができます。

【コリンエステラーゼ阻害薬】
商 品 名
学  名
作  用
アリセプト ドネペジル アセチルコリン分解酵素の働きを妨げ、脳内のアセチルコリンの量を増やす (詳細下記)
レミニール ガランタミン 同上とともに、アセチルコリン受容体に結合して神経の働きを高める
エクセロン リバスチグミン アリセプトとほぼ同じ作用


【NMDA受容体拮抗薬】
商 品 名
学  名
作  用
メマリー メマンチン NMDA受容体に結合して神経細胞へ過剰なグルタミン酸流入を妨げる (詳細下記)


3) コリンエステラーゼ阻害薬の作用

 脳の記憶機能が働くためには、神経細胞の間で情報を伝達する必要があります。神経細胞の突起の接合部である「シナプス」では神経伝達物質の一種である「アセチルコリン」が放出され、それを次の神経細胞の受容体と結合することで情報が伝わります。

 この際、アセチルコリンを分解する「コリンエステラーゼ」という酵素も放出され、アセチルコリンが分解されることで情報伝達が終了します。アルツハイマー病では、アセチルコリンが不足していることが知られています。
 これによる情報伝達機能が低下するのを防ぐため、脳内のアセチルコリンの量を増やす治療薬が「コリンエステラーゼ阻害剤」です。下図に示すように「コリンエステラーゼ阻害剤」が「コリンエステラーゼ」と結合することでアセチルコリンが分解されるのを防ぎます。


4) NMDA受容体拮抗薬

 神経伝達物質にはいろいろな種類がありますが、神経細胞は、興奮したときには「グルタミン酸」を放出します。このグルタミン酸を受け取る受容体が「NMDA型グルタミン酸受容体」で、グルタミン酸が増えてこの受容体が過剰に刺激されると、神経細胞に毒性が及び、神経細胞の機能低下や死滅を招きます。
 NMDA受容体拮抗剤は、下図に示すように「NMDA型グルタミン酸受容体」に結合し、受容体が過剰に刺激されるのを阻害します。


5) 新薬開発の動向

 現在ある認知症の治療薬は対症療法の薬で、根治療法の薬ではありません。根本的治療薬が開発中です。世界でその数は100種類以上といわれています。
その方向としては、

「βアミロイド」除去
生成阻止 ⇒βセクレターズ阻害薬  ⇒γセクレターズ阻害薬

「タウたんぱく」生成を阻害
凝集を抑制(「タウたんぱく」を標的にした「LMTX」がイギリス、アメリカで治験の最終段階を迎えている)

免疫の仕組利用
・抗体療法
・ワクチン療法(体内に入れてから抗体生成)

キノリン誘導体
整腸剤「キノホルム」を改良した薬

生薬
“脳のハーブ”といわれるシダ科の植物「トウゲシバ」

クルクミン誘導体
・βアミロイドとタウたんぱくの両方の蓄積阻止
・同上の凝集したものを分解
・抗酸化作用
・神経細胞を守る働き
(世界初のアルツハイマー治療薬「アリセプト」(「アセチールコリンエステ ラーゼ阻害剤」)を創薬した京都大学杉本教授が現在マウスで実験段階)


4.食品、サプリメントにおける認知症予防・改善の有効素材

 認知症治療の新薬開発の方向のところで述べましたように、認知症発症、進行過程に好影響を与える多様な成分や素材の研究、開発が進んでおります。この方向は、食品やサプリメントの分野でも同様です。
 この研究・開発の中で、現在注目されている成分や有効素材についてまとめてみましょう。

素 材 名
含まれる食品、動植物
成分・作用 詳細説明表示番号
クルクミン ウコン
1)
ヒューベルジンA トウゲシバ
2)
フェルラ酸 米ヌカ
3)
イミダゾールジペプチド 鳥胸肉
4)
ビタミンB群(B6、B12、葉酸)
5)


1) クルクミン

(成 分)
ウコンの主成分の一つ、ポリフェノール類

(作用の特徴)
1. βアミロイドの凝集抑制および解離を促進する




2. βアミロイドオリゴマーによる神経細胞毒性を抑制する


3. 血液脳関門を通過して、凝集班に結合する
4. スクワレンおよびピペリンとの併用により、吸収が促進される
5. α-シヌクレインの凝集作用、解離を促進する



6. 脳血流量低下を改善し、記憶障害を改善させる
7. 吸収が悪く、代謝が早い
8. 臨床(アルツハイマー病)でも有効


2) ヒューベルジンA

 ヒューベルジンAは、中国のハーブといわれる「トウゲシバ」の抽出物。トウゲシバは、中国では蛇足石杉、千層塔とよばれ、強力な鎮痛剤、あるいは腫れ、発熱、血液疾患の治療薬として知られている。
 認知症にたいしては、アセチルコリン分解酵素阻害剤として優れたハーブであることが報告されており、アメリカでは、記憶支援のサプリメントとして販売されている。

(成 分)
「トウゲシバ」から抽出されたシダアルカロイド

(作用の特徴)
1. 第二世代のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬である



2. 強力なアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示し、50~400μgの微量で臨床にも有効


3. NMDA受容体に対して非競合的な拮抗作用を示す




4. ドネペジルとメマンチンの両方の作用を期待できる
5. 選択的に大脳皮質および海馬に作用する
6. 作用持続が長い
7. 連続投与しても、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用は減弱しない(薬物耐性を生じない)。


8. 吸収が速やかで薬物の生体内利用率が高い
9. 血液脳関門を容易に通過し、大脳中脳に入りやすい
10. 蛋白結合が少なく、尿中に排泄される


3) フェルラ酸

 米ぬか由来の、植物の細胞膜を構成するリグニンの前駆体であり、多くの植物に含まれる成分。

(成 分)
植物フェノールで、ケイヒ酸誘導体の一種

(作用の特徴)
1. アミロイドの蓄積予防
2. βアミロイドペプチド、酸化ストレスからの脳神経保護
3. 脳内の神経幹細胞の増加による再生促進
4. 活性酸素消去効果
5. インシュリン分泌促進による血糖降下
6. ACE(アンジオテンシン変換酵素)活性の低下による血圧降下


4) イミダゾールペプチド

 哺乳類の脳や骨格筋のようにエネルギー消費の多い部分に豊富にふくまれる。現在は、ニワトリの胸肉から抽出され、抗披露保持の有効成分として期待されている。

(成 分)
アラニンとヒスチジンが結合して出来たジペプチド

(作用の特徴)
1. アミロイドによる神経細胞壊死の予防
2. 脳の虚血による神経細胞壊死の予防(神経細胞保護)
3. 抗酸化
4. 抗糖化(老化の原因となるたんぱく変性)
5. 重金属のキレート活性(亜鉛、鉄、銅の封鎖)
6. 細胞内のpHの維持(電解質異常によるpHの偏向を中和)


5) ビタミンB群

 2010年 英オックスフォード大学研究グループが、アルツハイマー病の認知機能の障害と関係する脳の委縮を予防する効果があると発表。

(成 分)
B6,B9(葉酸)、B12

(作用の特徴)
アルツハイマー病で脳の委縮がみられる海馬・側頭葉の灰白質の委縮を抑制、認知機能の悪化を防ぐ